神奈川県内の医療提供体制と迫りくる医療崩壊の危機

最終更新日:2020年12月18日

 本年11月以後、全国的に新型コロナウイルス患者が急増し、わが神奈川県においても例外ではなく、軽症・中等症患者、重症患者などを含め患者発生数が増加している。年代別患者構成も第2波に比べ第3波では若年者が減り40代以上の中高齢者が増加しており、それに伴って徐々に重症者数も増加してきた。

 県は11月14日に医療アラートを発出し神奈川モデル協力医療機関に即応病床を拡大するように要請を発出した。11月27日、県新型コロナウイルス感染対策本部では感染状況を判断するモニタリング指標は実質ステージ3であったがステージ3警戒宣言が発令された。県内の新型コロナウイルス感染者入院医療施設は、「神奈川モデル」として示されており、重症者を収容する高度医療機関と、主に中等症を収容する重点医療機関とその協力医療機関で構成されるが、医療アラートの発出により、即応病床を2週間以内に650床から1100床に拡大するという要請であった。

 しかし、医療従事者の確保の問題や、冬季に増加する脳心血管疾患や新型コロナウイルス感染症以外の呼吸器疾患などの病床も需要が増加することにより、思うようには病床拡大できず、確保されている即応病床は重症者病床85床、中等症、軽症者病床は687床、合わせても772床に過ぎない(※)。直近2週間の新規患者はじわじわと増加して128.3%、感染経路不明率は51.6%にも及びまさに蔓延期の状態である(※)。この状態が続けば、近い将来感染爆発とされるステージ4に到達することが危惧される。県内の即応病床における病床占有率は重症者用病床65.9%、軽症・中等者用病床は、57.8%に及んでおり病床ひっ迫状態と言わざるを得ない状態である(※)。病床拡大が難しい原因として、重症者用病床の拡大は、業務内容の専門性から機材の確保だけに限らず人員の配置・拡充が難しくこれが急激な拡大が難しい最大の理由となっている。まさに医療崩壊の直前と言わざるを得ない状況である。実際に他県においては重症者用病床がひっ迫しICUベッド・呼吸器・ECMO等の設備があってもスタッフが確保できず、ICU経験を持つが一旦離職した者を募集したり、大阪府や北海道の一部の都市のように災害として自衛官の派遣を要請するという事態に陥っている。県では、ひっ迫する病床の問題を解決する為、11月27日に行われた感染対策協議会にて軽症・中等症の入院の判断指標「入院優先度判断スコア」が採択され、今までのように65歳以上の者、基礎疾患を持つ者は即入院という入院基準が緩和され、中等症のうち比較的軽症のものは宿泊施設・自宅での療養が可能とした。これにより、軽症・中等症者用ベッドのひっ迫度は幾分緩和されるようになった。そこで、少し余裕ができた医療スタッフなどを重症者に振り分けられるとされている。このような中、12月11日宿泊療養施設で、入所者の死亡事例があり、より一層安全な患者管理システムの構築が必要な課題となっている。

 一方、外来診療においては、従来からの帰国者接触者外来や、各郡市医師会において運営している地域外来検査センターや、県と契約をし指定を受けた発熱患者受け入れ可能な診療施設を指定し対応してきた。しかし、インフルエンザ感染症などの新型コロナウイルス感染症以外の発熱疾患が多発する冬季、発熱診療等医療機関を拡充する必要があるため、厚生労働省は一般患者と発熱疾患患者と動線や診察時間をわけて診療体制が可能なかかりつけ医や病院において広く発熱診療等医療機関として指定し、診療する体制の構築を進めた。神奈川県でも発熱診療等医療機関の登録件数は1600程度となっている。発熱した患者は、直接受診するのではなく、かかりつけ医や病院にまず電話をし、受診方法や受診できる医療機関を紹介してもらえるよう指示を仰ぐ。かかりつけ医を持たない発熱・咳・咽頭痛を持つ様な方は、神奈川県が運営する発熱診療等予約センターへ電話(0570-048914)もしくは、LINEアプリにて受診相談をし、受診医療機関を紹介してもらうことなっている。現在、発熱患者と診療医療機関とのマッチング率はおおむね70%前後である。

 また、これから迎える年末年始の時期には、休業する一般医療機関も多く、発熱疾患患者が医療難民とならないよう神奈川県医師会では各郡市医師会と協力し休日夜間診療所をはじめとした診療体制を県下において構築している。

 いまだ、出口の見えない新型コロナウイルス感染症であるが、欧米諸国においてワクチン接種が開始されており、我が国においてもこれらの新型コロナウイルスの各ワクチンの許認可が下りれば、早ければ4月以降に接種が始まると予想されている。全国において、行政・医師会の協力のもとワクチンの接種体制の構築に向け準備が進められている。

 

(※)12月14日時点の数値。