医療崩壊の足音が聞こえています

最終更新日:2020年12月11日

 新型コロナウィルス感染症は第3波の拡大局面を迎えており、神奈川県においても感染者の増加は看過できない状況にあります。

 神奈川県では11月27日に「ステージⅢ警戒宣言」を出しました。これは「もうすぐステージⅢに入るので警戒せよ」ということですが、当初の規定に従えば、現状は「ステージⅢ」と認定する基準に達しています。

 また医療的な側面からだけ見ると、逼迫状況は「ステージⅣ」の重大局面に相当すると医療関係者は考えております。

 

(神奈川県の現状:12月7日時点)

 神奈川県の現状は、重症患者入院数は62名、中等症・軽症患者の入院者数は359名です。一方、入院可能な病床数(即応病床)は重症患者用で85床、中等症、軽症患者用で652床となっております。

 神奈川県において確保できるコロナ専用病床は、最大で重症患者用が200床、中等症、軽症患者用が1739床とされており、11月14日の医療アラート発動により、医療機関は病床の確保に取り組んでおります。もし、これらの病床がすべて確保・稼働できた場合の病床稼働率は、神奈川県のホームページに示されているように重症患者用で31.0%、中等症、軽症患者用で20.6%となり、まだ余裕のある運用状況と見えるかもしれません。しかし、実際の確保病床には、現在も一般患者が入院しており、必要なスタッフが配置されているわけではないので、コロナ病床に転用するためには時間がかかります。

 そのため、病床利用率は、即応病床数をもとに計算することが本来の形であり、それで算出すると重症患者の病床利用率は72.9%、中等症・軽症患者用の病床利用率は55.1%となり、かなり逼迫した状態であることが判かります。

 ただ、即応病床においても、軽症まで回復した患者さんを受け入れ病院がないために重症病床を占拠していたり、医療処置の必要上2床の病室を1床で運用せざるをえなかったり、人手の手配ができなくて入院させられなかったりと、諸々の事情で100%稼働させることは不可能であります。

 実際にコロナに対応している高度医療機関、重点医療機関からは、「コロナ患者を入院させる病床がない」「軽症化したコロナ患者を転院させるにも受け入れ先が全くない」「コロナ以外の一般の救急患者を断らざるを得ない状況になっている」といった悲鳴が聞こえてきます。

 このように神奈川県の発表しているデータと、医療現場の状況は大きく乖離しているのが実情であり、医療崩壊はすでに始まりかけているといえるのです。

 

(すぐ近くの将来)

 今の状況を見て、早急にコロナ専用病床を開設すればいいのではないかというご意見もあろうかと思いますが、それは容易なことではありません。神奈川県ではすでにコロナ患者専用の受け入れることができる臨時の医療施設(180床)を作りましたが、実際には109床の稼働にとどまっております。要因の一つは医療従事者の不足が挙げられます。コロナの重症患者の治療には、ECMOや人工呼吸器といった医療機器を使う必要があり、通常医療の数倍の医療従事者の人員を割く必要があります。

 コロナ患者を受け入れている医療機関においては、人材不足に加えて、感染防護のために、病棟を全てコロナ対応にするなどの措置も必要となってまいります。そしてなにより、コロナを治療するためだけに、病床があるわけではありません。様々な患者さんに対して最善を尽くし、命を救うことが医療機関の責務であり、そのために病床はあります。事故で怪我をされた方、心筋梗塞や脳卒中などで緊急の措置が必要な重篤な方を始め、冬季は感染症や循環器疾患が増加するなど、さまざまな疾患に対して治療を常に要請され続けます。コロナだけに、簡単に病床を割くことはできません。

 このような状況下で、病床と医療従事者の不足した医療現場では、コロナで「ある」・「ない」にかかわらず、あらゆる患者に対し、救える命に優先順位をつけ、患者を選別することを余儀なくされます。この「命の選択」をしなければならない状況になることこそが「医療崩壊」であります。

 神奈川県では、このまま毎日150人ぐらいずつ陽性患者が発生すると、「ステージⅣ」の基準に到達し、それ以降はコロナでも入院できない患者があふれると同時に、必要な一般医療も全く受けることができず、「命の選択」が始まり、完全な「医療崩壊」となる可能性もあり得ると考えております。

 

(今できること、今やるべきこと)

 Go ToトラベルやGo Toイートなどのキャンペーンは、コロナで減退した経済のアクセルを踏む事でした。その結果、人の往来は増え、交通機関の利用も増え、店を訪れる人の数も増えています。経済的な効果はあったと思いますが、それに比例してコロナの感染者数は増え続けています。

 私たちは、コロナウィルスの姿が見えてくるにつれて、重症化する人、しない人の選別もできるようになりました。それが特に若い人たちの気のゆるみにつながっていると思います。

 Go Toトラベルがコロナ患者を増加させたという根拠はないと政府は言っていますが、当初、国民の皆さんが持っていた行動抑制のタガを緩める大きな要因になったのは確かであると思います。

 感染の第2波で若い世代の感染者が増大し、第3波で高齢者にも感染が広がっていった事実は、行動規制のゆるみが現在の感染拡大の大きな要因となったことを示しています。そして高齢者の感染が増え、重症感染者が増加していることが今の医療崩壊の危機を迎えた大きな原因となっています。

 例えば、コロナに罹患した60歳以下の方が観光地や地方へ移動したり、会食をしたりすることで結果として感染者が増加し、高齢者や基礎疾患のある方も感染し、重症化するというケースもあります。また、第2波の時から言われていますが、若い世代の方が飲食店で大勢集まってお酒を飲み、気が付かないうちにコロナに感染し、家族や会社に広め、患者数が増加しているということもあります。その積み重ねが、今の「第3波」という状況を生んでいるのではないでしょうか。

コロナの感染拡大を再び抑えるためには、まずは不要不急の外出をしないことが一番ではありますが、外出する際には、マスクの着用や手指消毒など、今まで言われてきた当たり前の対策を丁寧に実施することしかありません。

 今すぐにでも、アクセルからブレーキに踏み替え、感染拡大を一刻も早く抑えることが一人一人の健康と周りの大切な人々を守ることにつながります。

 すでにコロナは市中に蔓延しています。そして、「医療崩壊」の足音は聞こえてきています。

 

(最後に)

 医療関係者は、全力で対応しておりますので、県民の皆様のご協力と、引き続きの応援を何卒よろしくお願い申し上げます。

そして、皆様が、コロナにかからず、健康でいただくことを何より祈念しております。