在宅医療と新型コロナウイルス感染症

最終更新日:2020年08月27日

 猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症に対して、在宅医療の現場はどのように対応していけば良いのか、極めて対応に苦慮する問題です。ここでは(1)居宅の患者、と(2)入所介護施設の患者にわけて検討してみます。

 

(1)居宅の患者

 居宅の在宅医療の対象となるのは、外来通院治療ができず自宅で寝たきりでいる患者さん、生命維持のために医療機器を継続的に必要としている患者さんです。この状態にある患者さんが、発熱や咳が続いた場合、通常の外来通院患者のように胸部レ線撮影を行い、PCR検査を行うというスタンダードな対応は、事実上できません。いつもの誤嚥性肺炎のつもりで治療をはじめ、どうしても病院での入院治療を要する病態になった場合に搬送された病院で診断に至る、これが実情であると思います。大勢の患者が行き交う病院に搬送されていくこと事態に感染リスクがあり、病院受診に関しては「本人、家族とじっくり協議の上で決める」ことになるでしょう。そうであるならば、COVID-19の細胞内侵入を阻止する機能があるとみられている膵炎の治療に有効性があり、安全性が確認されている小野薬品の「フォイパン」の予防的服用を検討してみてはどうか、と考えます。いくつかの研究成果を踏まえ、開発製造元の小野薬品は、「フォイパン」の治験を開始したことを2020年6月5日に発表しています。以下に、小野薬品の広報を御紹介します。

 

 2020年6月5日

小野薬品工業株式会社

各位 _

蛋白分解酵素阻害剤「フオイパン®錠」 _

新型コロナウイルス感染症(C_O_V_I_D_-_1_9_)に関する臨床試験を開始

 小野薬品工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:相良 _暁、以下、当社)は、本日、蛋白分解酵素阻害剤「フオイパン®(一般名:カモスタットメシル酸塩)錠」を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する臨床試験を開始しましたのでお知らせします。 _

 「フオイパン®錠」は、慢性膵炎および術後逆流性食道炎の治療薬として製造販売承認を取得している薬剤です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスSARS-CoV-2は、人の気道などの細胞にあるACE2受容体に結合した後、ウイルス膜と細胞膜を融合させて侵入、感染します。膜融合を起こすには、細胞側の蛋白分解酵素TMPRSS2にウイルス表面のスパイクタンパク質を切断させる必要があり、フオイパン®錠はこの酵素の働きを抑えるメカニズムを有しています。このようなメカニズムの特徴から新型コロナウイルスに対しても効果が期待されています。

 今回の臨床試験においては、カモスタットメシル酸塩の有効性を示唆する基礎の論文報告とヒト血中濃度の関係性を踏まえ、より高い有効性を得るために、承認用量を超えた用量で行うこととし、健康成人における安全性を確認した上で、新型コロナウイルス感染症の患者を対象とした臨床試験を行います。

 当社は、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念のもと、革新的な医薬品の創製を通じて社会に貢献すべく取り組んでいます。

 COVID-19は世界的な脅威となっており、治療薬、ワクチンの開発が急務となっています。当社は、すでに国内外の医療機関・研究機関からの要請に基づき臨床研究用製剤の供給を行っておりますが、研究薬となる可能性のある医薬品を有する企業として開発に取り組んでまいります。

フオイパン錠®について

フオイパン錠®は、当社が創製した経口蛋白分解酵素阻害剤で、1985年に「慢性膵炎における急性症状の緩解」の効能・効果で製造販売承認を取得、

1994年には「術後逆流食道炎」の効能・効果も承認取得しています。なお、本剤の物質特許は1996年1月に満了しています。

 

以上

〈本件に関する問い合わせ先〉

小野薬品工業株式会社 広報部

TEL:06-6263-5670

FAX:06-6263-2950

 

 

(2)入所介護施設の患者

 先日千葉県の介護施設で集団発生した事例があり、すでに報道されていましたので、多くの方がご存知でしょう。対応方法については、2月18日の時点で、厚生労働省から「介護保険最新情報」の中で、「社会福祉施設等における利用者等に新型コロナウイルス感染症が発症した場合等の対応方について」で対応方法の手順が示されています。私が継続的に診療している3カ所の入所介護施設においては、出入りする医師の体温を測定し、マスク使用下に出入りが許されていますが、施設によっては施設の方針に基づいて、玄関先で職員と情報共有して定時処方を渡して、施設内に入らないままで終わる場合もあります。それでも、中で勤務している職員が「無症候性の新型コロナウイルス感染症」であれば、施設利用患者に感染が広がることも考えられます。認知症GHのように利用者が和気あいあいと生活していることで、病態の安定化がはかられている施設では、感染が広がれば問題は深刻なものになります。問題解決のためにはワクチン接種に期待されるのですが、ワクチンができるのは、どんなに早くても来年の秋以降です。また施設診療に対応している担当医が新型コロナウイルスに罹患して、現場を離れて療養した場合に、どの医師がバックアップをして入所患者の診療を継続するのか、神奈川県庁と県医師会で協議を重ねました。入所介護施設へ訪問して必要な検査をする地域の医師を保健所に登録して作業を進めて行く方向で動いています。共に現場を担う訪問看護ステーションも同様にバックアップ体制をどうするのか、検討を重ねています。このような緊急事態ですから、行政には「訪問看護指示書」がなくてもバックアップステーションが動けるようにするなど、制度の柔軟な運用ができるようにして頂きたいものです。