危機管理の脆弱と初動態勢の不備

最終更新日:2020年05月03日

 PCR検査は、誰でもが実施できるわけではありません。感染性のあるウイルスを取り扱うのならなおさらのことです。しっかりとした設備の中で適切な診断機器の下、技術を持った臨床検査技師によって行われます。

 今はっきりわかってきたことがあります。国の初期対応の不備で、PCR検査を含めた検査体制の拡充が遅れてきたことは明らかです。そこには感染拡大の数と速度を読み間違いしたことにありそうです。私たちも検証が不十分で解明が足りませんでした。

 しかしながら、全くしていなかったわけではないようです。新型コロナウイルスに関しては、中国が1月12日にウイルスのゲノム配列情報を開示したことを受けて、感染研が1月下旬には自家調整の遺伝子検査の手法を確立し、全国の地方衛生研究所などで同様の検査が実施できる体制を構築しました。そして新型コロナウイルス感染症を感染症法に基づく「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を閣議決定したことを受け、新型コロナウイルス検査は、公費負担で行う行政検査としました。後にこのことが大きな問題点を有することになります。

 この直後から、神奈川で対応したクルーズ船の対応のために検査数が一気に増加して、さらにクラスターの多発により、想定していた従来の対応にほころびが称することとなりました。これを受けて厚生労働省は、2月上旬から珍しく前例の無い方策を打ち出しました。感染研が確立した検査を、民間検査会社での対応を打診し、2月13日にはスイスRoche社の研究用試薬を用いたPCR法でも民間検査会社での対応も容認したのです。さらに、文部科学省を通じて一部の大学病院でも感染研や地方衛生研究所だけでは対応できない検査に対する体制を作り、正しい検査の結果が出るかどうかに施設間差が生じる可能性が高いとしながらも、何とか2月12日時点で1日約300件だった検査能力を、保険適用を決めた3月6日までに約4200件に引き上げました。

 しかしながら、国は事の重大性にその認識も甘く、対応の質や量、そして速度も十分ではありませんでした。問題なのは、PCR検査の機器も人材もが不足しており、検査を受けなければならない人々の検査が十分に行えていないことなのです。本当であれば作ることはできるものはあるのに、コストが割に合わないものがあり企業も努力はしますが、採算上不透明なものには設備投資できるはずはありません。そこも国が支援しなければならないと思います。国からの補助金もあれば既存の製造ラインの生産力を増強するという方法や、既存設備を転用して類似のものを作り上げることもできるでしょう。大企業は社会的貢献として、評価が上がるということもありましょうが、光が当たらない、元々体力がない中小の企業への支援が望まれるところです。

 さらに日本の医療検査体制は余裕のない状態でした。特許などの絡みもあり、機器も試薬を含め消耗品やその材料は輸入に頼っていたので、国内生産体制はどうしても脆弱です。PCR検査件数を意図的に抑制しているのではなく、以前からの国の施策により、予算削減の中で設備や人員削減をせざるを得ない状況で、純粋に検査体制能力の絶対的不足がとても大きい問題なのではないでしょうか。感染症に対する国の危機管理体制が構築出来ていなかったことが根本の原因ではないでしょうか。問題は厚労省のみではなく、むしろ財務省も含めてのことなのかもしれません。

 保健所が検査の間口を狭めているのはPCR検査件数を意図的に抑制しているのではなく、純粋に検査能力の絶対的不足なのです。機器数や機材や試薬の不足もさることながら、検査にあたる人材不足です。PCR検査を正しく行うためには、専門的な技術が必要です。PCR検査は、検体採取、前処理、装置よる測定などの流れとなります。かなりの工程数を経て、結果が得られるのです。検査の迅速化は現在さまざまな工夫で可能となってきましたが、現状を考えればまだまだ不十分です。

 統計には退院時のPCR検査は含まれてないので、多い日は2万件に近い件数の検査は行われてことになります。このところ、民間の検査機関の協力でこの事態も少しばかり改善されてきましたが根本的な原因の解決には至っていません。民間に任せれば10万件出来るなどというコメントがありますが、現状では実現することは難しいこととなります。

 新型コロナウイルス感染症が感染症法に基づく「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」になったことで、新検査は公費負担で行う行政検査としたことが問題点となって、医療機関が自由に検査することが当初困難でした。行政検査を臨床検査として行うことが認められ、神奈川県医師会として、新型コロナウイルス感染症に対するさまざまな検査が行えるようになってきたのです。多くの法的による行政の壁が少し緩和されて、活動しやすくなってきました。