「神奈川モデル ハイブリッド版」 感染を疑った患者さんへのPCR検査が速やかに実施できるように

最終更新日:2020年05月22日

①唐突な「神奈川モデル」発表により生じた多くの混乱

 3月中旬に行われた神奈川県との会議で、新型コロナウイルス感染症の患者さんの増加にどのように対応していくべきか協議をしました。検査方法も当時は充実していない、治療法も確立していないその中で世界的な流行となってしまいました。マスクやガウン、消毒液が圧倒的に不足している状況の下では、医療従事者がばらばらに行動することは感染リスクの面からも、限られた医療資材の面からも避けるべきという議論がなされました。

 その後、神奈川県からの説明はほとんど無いまま、突然3月下旬に知事が「神奈川モデル」の発表をしました。十分な説明がないまま発表したために医療機関も、市町村などの行政も大変困惑しました。一方で、新型コロナウイルス感染症の患者さんは日に日に増加しており、もはや医療崩壊待ったなしの状況が近づいておりました。「神奈川モデル」を画にかいた餅で終わせるわけにはいかず、神奈川県医師会、神奈川県病院協会、感染症専門家、行政関係者が一丸となって、「神奈川モデル」の原型を地域の実態に即したハイブリッド版として進化させる作業が始まりました。

 

②「神奈川モデル」とは

 「神奈川モデル」の特性は、感染が判明した入院治療が必要な患者さんをまずは「重点医療機関」が引き受け、状況に応じたふるい分けを行うことにあります。「重点医療機関」は酸素投与が必要な患者さんへの肺炎治療や、高齢や持病がある患者さんの入院治療を行い、重症化した患者さんは「高度医療機関」に搬送し、回復した患者さんは自宅や宿泊施設に移動してしていただきます。重点医療機関が地域でコロナ診療の中核を担うことで周辺の医療機関の負担が軽減する極めて合理的な考え方です。重症患者さん1名を治療するためには、集中医療を専門とする医師や看護師、臨床工学技士が10名以上も必要となるため、各医療機関の特性に合わせた機能分化が必要なのです。

 この考え方は、神奈川県は2月にクルーズ船ダイアモンド・プリンセス号が横浜港に接岸したため多くのコロナ陽性患者の診療に日本で一番最初に直面した経験に基づいたものです。ですから、感染源が単発しているような時期のみに、対応できるモデルでした。

 

③当初の「神奈川モデル」に足りなかった視点~PCR検査体制~

 発表当初の「神奈川モデル」では、感染の疑いのある患者さんは国が示した受診の目安に従って、相談センターに電話をかけ、状況に応じて帰国者・接触者外来を担う病院で検査が行われるとなっていました。その為、「相談センターに何度電話してもつながらない」といった県民の皆様の声や、「医師が感染を強く疑っても、保健所が検査をしてくれない」といった医師の声が多く聞かれました。

 神奈川コロナ通信でご案内の通り、PCR検査の件数を増やすことはそう簡単なことではありませんでした。一方このままの検査体制では、感染が疑われる患者さんがあちこちの医療機関を渡り歩いて感染拡大を起こすことを懸念しました。

 従来の検査の最大の障害が、新型コロナウイルス感染症を、感染症法に基づく「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を閣議決定したため、新型コロナウイルスの遺伝子検査は、行政検査となったためです。PCR検査が「行政検査」となると、医師がさまざまな症状から検査が必要であると考えても、自由に検査が行えない法的規制が生まれてしまったのです。

 神奈川県医師会は、医師が感染を疑った患者さん全員に速やかにPCR検査が行えるように、神奈川県と何度も交渉を重ね、「行政検査」を「臨床上必要な行政検査」と置き換えて解釈できるようにして一部でありますが、医師の裁量の中で行えるようにしてきました。このことで、医師会員が中心となって行うPCR検査場(効率的に検査を行うドライブスルー方式やウォークスルー方式を採用)が4月の下旬から県内各地でスタートしました。5月から6月には県内ほとんどの地域でPCR検査場が開設できるようになります。これによって帰国者・接触者外来を行っていた病院の負担や、行政検査を行う保健所や衛生研究所の負担が軽減されることが期待されますし、なにより感染が疑われる患者さんにとっての福音となります。とにかく、行政検査という規制の壁が強く、他の県ですが先進的な知事の判断で風穴があいてきました。神奈川県の行政検査の壁を、臨床検査に近い形として必要と思われるときに検査ができるようにしたいと願っています。これは、これから起こるかもしれない感染の大きな波にたいして、発生初期のクラスターの発生を早期に感知して、感染拡大に結び付けないという布石でもあります。

 5月になって国の示す医療機関へのわかりにくい受診の目安も改善してきたので、体調の悪い患者さんは受診を我慢しないで、かかりつけ医に相談していただければと思います。新型コロナウイルス感染症の患者さんの重症化を絶対に防止したいので、「体調は悪くないけれどコロナが心配だから、念のために検査して欲しい」といったご要望には沿うことはできませんので、ご了解いただければ幸いです。

 また、唾液による検査も北海道大学と北海道医師会の努力で道が開けようとしています。詳細な情報も入手しており、県内での実施に向けて調整しております。

 

④県内各地域によって事情が異なる医療提供体制

 「神奈川モデル」は県内どこでも同じというわけではありません。とくに入院病床については地域によって、それぞれの病院が担ってきた役割が異なります。地域によっては公立病院がなかったり、感染症の専用病棟がほとんどなかったりしますし、「神奈川モデル」の重点医療機関が果たす役割を一つの病院だけで行うのが困難な地域もあります。

 神奈川県はもともと、人口に比してベッド数は少なく、日本一入院ベッドを効率的に運用している県なのです。ですから余っている(空いている)入院ベッドはほとんどなく、コロナ患者さんを引き受けるためには、従来行っていた一般診療の患者さん用のベッドを制限せざるを得ません。

 神奈川県医師会では、地域によって異なる事情を鑑みて、「コロナ地域医療構想調整会議」を二次医療圏毎に開催し、県と市の行政・医療関係者で現状と課題を共有して行く予定です。これにより「神奈川モデル」ハイブリッド版がさらに進化させてかなければなりません。

 

⑤進化させなければならない神奈川モデルハイブリッド版

 我々の目標は、「神奈川モデル」を完成させることではありません。県民の皆様を新型コロナウイルス感染症から守ることです。そして、従来行ってきた救急医療をはじめとする医療提供体制を守ることです。今まで当たり前に行われていた地域での医療提供が十分に機能できなくなると、交通事故にあった時、心不全や心臓発作を起こした時、脳出血や脳梗塞になった時、救命することが出来なくなります。そのためには医療従事者を感染から守り、医療崩壊が起こらないよう細心の注意を払いながら、日々の診療を続けなければならないのです。

 県民の皆様には緊急事態宣言以前から大変なご負担とご苦労をおかけして、感染拡大防止のための行動制限にご協力いただきました。そのおかげで県内の新規感染者数は減少に転じており、退院される患者さんも増加しております。本当にありがとうございます。また県民の皆様からの医療機関へのエールのお陰で、我々医療従事者にとって大きな励みとなっております。

 それでも院内感染が起こり、感染者の減少のスビートを加速させることがなかなかできません。新型コロナウイルスは悪賢く厄介なウイルスです。感染しても無症状の人が一定数おり、ひっそりと気づかれないよう院内に入り込み、周囲に感染を広げるのです。医療機関が感染防止を徹底するのはなかなか難しい状況です。 「院内感染」と言っても、ウイルスは院外から持ち込まれるのです。まん延期になると、救急搬送など別の症状で受診した無症状の感染者から広がる可能性もあり、100%防止は不可能に近いものがあります。リスクの高い人が集まる医療機関に感染が連鎖した結果、集団感染が生まれてしまうのです。医療機関も日々反省しながら、注意を払っています。今は医療従事者が危険と隣り合わせの中で奮闘して、新型コロナ以外の通常の医療提供も維持できている状況で、なんとか医療崩壊を食い止めている状況です。

 今の感染拡大の波には、医療崩壊を起こさずに何とか乗り切ることが出来そうですが、まだ我々には有効なワクチンも、確実な治療薬も、簡便で迅速な検査手段もありません。ということは、いつ次の波が押し寄せてきてもおかしくない状態であるということです。次の波がいつ来るのか、どれくらいの勢いで来るのかはわかりません。気を緩めることなく、必ず次の波が来ると覚悟して、神奈川県病院協会や神奈川県看護協会と共に医療体制を整えていきたいと思っています。